昭和80年、関西地方のどこか。夏ももう終わりかけている、美作屋の開店前の店内。
旦 : 番頭はん、夏ですな...
番 : 旦那はん、いきなりどないしはりました。
旦 : 夏といえば海です。番頭はん、海へ行きたくはありまへんか。
番 : 釣りになら先々週行きましたが...
旦 : そういうことではないのです。実は、話というのはな、鈴緒が海に行くそうじゃありまへんか。どうやら男と行くわけではないと言っているが、そんなことしたら、また悪い虫がついてしまうし、なんとか止める方法はないものか、と思うてな。
番 : お嬢はんかて若いんですから、たまには外で遊ぶのもええと思いますが。
旦 : 他のところならともかく、海はいかん!せっかくの玉の肌が日焼けしてしまうし、だいたい鈴緒の水着姿を市井の者共に見せたくない。
番 : 本音が出ましたな。そんなに心配やったら、こっそりと見守る、というのはどうでしょう。
旦 : 私もそうしたいのはやまやまなのだが、こっそり後をつけたりするとしても、むこうで鈴緒に会ってしまったりするとたいへんなことになる。そこで番頭はん、その日は有給にするよって、偶然居合わせたことにしてなんとなく鈴緒達を見張っておいて欲しいんや。
旦那はんに対してはちょっと困ったような態度を見せた番頭だったが、心の中は「ヤッター!」である。いとはんと音音の水着姿を想像するだけでなく、実際に拝めることになったからだ。しかしそれには大きな問題があり、自然にこっそりと見守るのは難しい、ということだ。変装したり、隠れていては他の人に怪しまれるし、だいたい男一人という状況も変だ。だからといって誰も適材がいない。英丸は海が似合わないし、寅吉を連れていけば連れの分まで女をひっかけてくる始末。どうしたものか。